1. HOME
  2. ナヌカビ通信
  3. ナヌカビ通信
  4. 令和7年 ねぶた祭りまであとわずか・・・
ナヌカビ通信

ナヌカビ通信

令和7年 ねぶた祭りまであとわずか・・・

今年出陣する23台の大型ねぶたの制作が佳境を迎えている。

青森港開港400年、地球温暖化による影響とみられる猛暑と豪雨災害や地震などの災害を鎮めるための祈りや復興に思いを馳せた題材や、昨冬の豪雪災害、猛暑による農産物や水産物の被害の回復への祈りや願いを込めたものに加えて、定番の歴史上の武将たちの場面などをねぶた制作者独自のセンスで表現した傑作が、青森市民や観光客を楽しませてくれるだろう。2008年「忠臣小島高徳と范蠡」で最優秀制作者賞を獲った北村隆六代名人は今年も、日本と中国の武将、徳川家康と漢王朝の始祖劉邦を題材に、時空を超えた世界を創り出す。何でもありの青森ねぶたは、限界のない制作者の想像力により、より自由にこれからも進化するのである。人間の中にある、恐れや祈りを鎮魂の象徴として、時には逆鱗のない龍や鬼を制作者の独自の感性で、色とりどりに創り出し、観客を楽しませてくれる。参議院選挙が終わり、梅雨が明ければ、青森ねぶたは始まる。あと2週間。

大阪万博や全国各地のイベントに青森ねぶたのみならず青森のねぶたが派遣され、インバウンド効果による外国人観光客の増加なども見込まれ、青森の街のキャパを超える観光客が来ることが予想される。加えて、青森ねぶた祭とは10年来の因縁のディズニーのスターウォーズのねぶたがつくられた。来年の新作映画「マンダロリアン&グローグー」の世界的プロモーション「スター・ウオーズセレブレーション」の本イべントと前夜祭への参加を要請され、数か月のテレビ会議や打ち合わせ経て、アメリカ本社、ルーカスフィルムなどの映画関係者から、キャラクターのデザイン、色彩、照明などの了解を得て、ねぶたは内山龍星、立田龍宝師により制作され、英語のポスターで紹介された。

4月17日から4月20日まで幕張メッセと豊砂公園で開催されたイベントには世界中からスターウオーズファンが押し寄せた。本イベントの初日4月18日には海浜幕張駅から本会場幕張メッセまで、開館時間前から長蛇の列が続いた。来場者の7割方は外国人である。しかも年齢層の多様さと入場者の多さとイベントの規模に圧倒された。本イベントのステージは日本人ゲスト以外はすべて英語でなされ、同時通訳の字幕付き映像が流れた。映画監督や出演者、日本人ゲストでは映画「シン・ゴジラ」の山崎監督がねぶたの前でねぶた師と語らうなど、大いに盛り上がった。ねぶた師を含むスタッフは青森市の名入り半纏を着て青森市の宣伝にも一役買ってきたところである。前夜祭会場と本イベント会場間約500メートル間の移動の度にねぶた本体と台車の解体、トラックへの積み下ろし、組み立てが何度もあり、しかも時間制限のある中での作業を可能にしたのは台車の仕掛けと工夫、ベテランスタッフの熟練さのなせる業であった。スター・ウォーズとディズニーとの信頼関係を築きその要請に応えてきたノーハウの蓄積は青森ねぶたにとって計り知れない財産となるだろう。日本側の広告代理店の担当、ディズニー側にもねぶたの理解者が増えたことが何よりである。他のイベントへの参加要請もあり折衝中と聞く。

世界規模でイベントを仕掛ける、「スター・ウォーズとディズニー、恐そるべし。」である。

 今年のねぶたに関してはいくつかの新しい動きがあった。青森市はふるさと納税100万円で返礼品にねぶたの引き手の体験を募集した。宿泊費に特産品のお土産付きで2人一組、2日、4日、6日の3回行われ、提灯持ちや声出しなど、他のねぶたでは日当をかけてアルバイトを雇う仕事である。市長との面会もあるそうだが、さてどうなることやら。また、アニソンで世界的な人気歌手メインがオリジナルのねぶたを制作して運行するためにクラウドファンディングを募集した。こちらはかなりの反響を呼びそうで、おそらくはどこかのねぶたの前ねぶたでの運行を考えているのだろう。何でもありの青森ねぶた、こちらもうまくいくことを願う。みんなそれぞれが楽しんでくれればいいのである。

今年初めてではないが、担い手不足などの影響で少なくなった地域ねぶたが6月の末、高田地区で運行された。高田地区のみならず、荒川地区、横内地区、幸畑地区などの住民も参加して、地域を超えて、のねぶたである。かつては伝統のねぶたを守ってきた地域であり、何人もの有名なねぶた師を輩出しきた地域である。7代ねぶた名人竹浪比呂央氏の手掛けた、竹ひごを用いた昔ながらのねぶたにロウソクの灯りが揺れるねぶたに200人の住民が楽しみ、運行のゴールでは子供ねぶたを燃やし悪霊退散を願うねぶた炎浄でフィナーレを迎えたとある。これからも地域を超えて、囃子方、運行係の人的担いや、道具などを持ち寄る連合での運行が増えてきそうだ。祭り本番の運行に参加せず、観光のためでない地域だけで運行される地域ねぶたの灯を絶やさないための施策を、行政を中心に講じられてしかるべきであろう。

 今年は大型ねぶたを制作する新人のねぶた師のデビューはないようだが、7代ねぶた名人竹浪氏の主宰する研究所では、県外出身の門下生がねぶた師を目指して研鑽を積んでいる。日本画や彫刻などを学び、竹浪名人の下でねぶたの可能性を探している。職業としてのねぶた師には、後継者不足といった問題は当面悩まされることはないのかもしれない。竹浪ねぶたが弟子たちの日々の研鑽により、どのように昇華するのか楽しみである。

 およそ50年位前、国道103号の雲谷から八甲田山に続く坂道の上り口横内地区に「ねぶたの里」があった。樹木に囲まれ、横内川が流れる自然に囲まれた約11万平方メートルの園内には運行された大型ねぶた10台の他に、運行上の大きさの制限のない川中島のねぶたが鹿内一生名人の手で創られ、展示されていて、運行、跳人、囃子などの体験も行われた。現在のねぶたの家ワラッセは青森市役所が建設し、青森観光コンベンション協会を指定管理者にして運営されているが、その原型でもある。ツアーによる団体客や修学旅行生が今と比較にならないほど大人数だった当時、何百人ものお客さんが一度に食事をする場所がなかったことの解決にも役立った。ジンギスカンを食べたり、園内のアスレチックで子供も大人も楽しんだものである。クジャクやホロホロ鳥なども放し飼いにされ、自然の中のねぶたのテーマパークとして、賑わった。2013年事業は廃止された施設であるが、今年にわかにその活用策を模索する動きが出てきた。今はやりのキャンプや、野外コンサートなどを考えているようだが、事業廃止後施設を入手したご主人が亡くなってその遺志をを引き継ごうと、韓国生まれの奥様が、青森愛を胸に構想を思案しているとのこと。青森の人間としてありがたいことである。何とか困難を乗り越え、夢を成就させて欲しいと祈りたい。

 内山龍星氏が制作している、青森市PTA連合会のねぶたでは、小学生たちが紙張りの一部を行ったという。市P蓮ねぶたの原点に返ったというべきか。資材の高騰、高齢化などによる人手不足により諸々の人件費の高騰などで、紙張り集団の募集も困難になってきたという。かつては各ねぶたに紙張り軍団という女性たちのグループがいて、時には制作者の垣根をを越えて各小屋を回り、紙張り作業を担っていた。鹿内組、千葉組、北村組など制作者によって特徴の有る曲線の微妙な違いを理解している、ベテランのご婦人たちのグループである。蝋がき、書き割り、色付けの作業に入る前のねぶた小屋で作業をするのだが、早くて、丁寧なプロ集団である。そんな中で内山龍星氏が小学生たちに紙張りの機会を与えたのは英断といってよい。かつて自分が小学生のころ千葉作龍の小屋に出入りして、大型ねぶたに触れながら作業に関わったときの感動を、子供たちにも体験してもらいたいとの思いがあってのことで、未来のねぶた師が生まれるかもしれない。そのほかにも、観光客に紙張り体験を可能にしているねぶたもあるようだ。目的は何であれ、賞取りを目指すねぶたばかりでなく、いろいろなねぶたの楽しみが可能になるのは悪いことではない。自分が紙を張ったねぶたが運行されるのを見て、小学生たちは特別な感動を味わうだろう。

 コロナ渦により2年の運行中止を経て、今年49回目の運行を迎えるのが、ワタネブこと「私たちのねぶた自主制作実行委員会」である。51年前の発足当時から、100円ねぶたともいわれ、100円以上の入会金を払えば、誰でも会員になれ、ねぶたの制作から運行、囃子方まですべて会員たちの自主参加で担われ、人件費はゼロである。半世紀前、観光客のためのねぶた祭りに特化されようとしていたころ、「ねぶたは青森市民のための祭りである。

市民が自分たちが楽しめるねぶたを取り戻すためには、すべて自分たちでその場所を作ろう。」との呼びかけで始まった。特定のスポンサーを持たず、小口の会員集めは今も続いている。発足当時は青森ねぶたに一石を投じる役割を果たし、かなりセンセーショナルにマスコミは取り上げたが、50年たった現在、会員の固定化、高齢化などで苦難の道を歩んでいる。特別だったことが繰り返し継続しているうちに、既存勢力に埋没してしまう運命をたどるのは仕方のないことかもしれないが、青森ねぶたの団体としては特殊であることは間違いがない。「ねぶたは下手でも、自分の手で創ったねぶたはどのねぶたより最高なんだ。という誇りをもって、日々励んでいる。ねぶたづくりの楽しさと、自らの手で運行する喜びを体験したい方は、ぜひ小屋を訪れてはいかがだろうか。

かつて、メインスポンサーの会社のロゴが占めていた、送り絵の部分は、100円の入会金を払ってくれた会員たちの名前で飾られている。それも伝統である。転勤していった会員からも会費が送られてくるなど、青森でのねぶた体験を大事にしている会員たちもいる。

 猛暑、豪雨、地震、水害 令和の米騒動、少子高齢化、物価高、海産物の不漁、世界に目を向けると、戦争、飢餓、人種問題、大国による資源と富の独占を目論む紛争、など、歴史を学ぶが、歴史から学ばない人間たちの欲望を考えながら、青森ねぶたを見るのも一興だろう。 

ナヌカビ通信